父との2週間にわたる旅行は、スイス、スペイン、フランスの3カ国をめぐった。
ルツェルン、バーゼル、ベルン、グリンデルワルト、バルセロナ、モンサンミッシェルへの日帰りを含むパリの6都市をまわったわけだが、それでも一般的な団体ツアーに比べれば少ない方である。
ヨーロッパの仕事仲間と話していて彼らの日本人に対するイメージに共通しているものがある。 高度に発達した技術力、世界第二の経済大国(だった)、昨今の寿司ブームによる食文化やサブカルチャーがポジティブなそれで、あまり格好のよくないしかしよく知られているのが、ツアー旅行のイメージである。 大型のバスで観光名所に乗り付ける。 全員が大きなカメラをもって降りてきて、ありとあらゆるものにカメラを向けて写真を撮る。 写真を撮りおわると、ほどなくバスに乗って次の観光地に出発する。 言葉は現地語はおろか英語も殆ど話せない。 ブランドショップにおよそ似つかわしくない服装でやってきて、高価なバッグをたくさん買っていく。 言葉が通じないとわかると、話すのをあきらめてニコッと笑顔を見せる。 どうやら四泊五日、7カ国の旅とかいうのがあるらしい。 などなど。
父との旅は二人きり、公共の交通機関をつかい、バルセロナやパリなどはそれぞれ三泊するなど実に余裕のある旅程だった。 大雑把に候補は挙げてはいたが、実際は現地に着いてからさて、明日はどこへ行こうかなどと話し合って決めるような具合だった。 私が旅行するときはいつもこんな調子だ。 団体旅行のいいところは、ただ添乗員について行き、バスに乗ってさえいれば、旅が完結するところで、何も自分で考える必要はないし、歩く距離も極端に少ない。 ただ反面、帰ってきてから旅の思い出がやや希薄だということが残念なところだ。
私も、仕事の関係で、日本から取引先を招待していわゆるツアーを企画アテンドしたことがたびたびある。 バスをチャーターし、全行程に旅行会社から添乗員をつけているので、私自身は、旅行が始まってしまうと割と楽なのである。 ところが、自ら企画したはずのこの手の旅行では、殆ど大した感慨が残らない。 お客様と一緒ということで気を遣っているということもあるが、やはりバスに乗り放しのお任せ旅行はつまらないのだ。
自分で路線をしらべ、チケットを予約し、観光案内書を読む。 お金を払って現地のガイドをやとい、説明を聞く。 場合によっては、天気にたたられびしょ濡れになったり、電車が遅れて予定がくるうなどのハプニングもおこる。 しかし、これもまた旅の思い出なのだ。 サグラダファミリアに行けば、その歴史を知りたいし、写真を撮って終わりではなく、教会の椅子に座りこんで柱やステンドグラスを見上げ、時間を気にせず飽くまで美しさを堪能したい。 私は団体旅行を好まない。
先に挙げた日本人のイメージが、どうしてヨーロッパの人々に定着したのかというと、それは高度成長期からリッチになった日本人が大挙して押し寄せ、彼らの旅慣れないところ、ブランド品思考などと相まって、その存在が非常に目立ってしまった、ということがあるのだと思う。 昨今は、中国人の観光客が増えており、相対的に日本人の陰が薄くなりつつある。 今回の旅行でも至る所で彼らの存在が目に付いた。 日本人と同じようにどこにでもカメラを向け、片時も手放さない。 何でも撮りまくる。 団体で行動し、どこに行ってもやかましい。 団体であるがために、気が大きくなり、周りにどう見えているか気を配る事ができないので、余計に悪く目立つのだ。 同じ事が日本人から中国人に変わりつつあるだけだ。
中国人観光客が日本人観光客と一緒かというと、歴然と違うところもある。 パリのホテルのフロントで、コンシェルジュと話をしていると、突然横から割り込んで来るのは中国人の添乗員らしき女性。 コンシェルジュがムッとして、待つように促しても言うことを聞かない。 そのうち、他の受付従業員と口論を始めた。 予約の際に、部屋数にミスがあったらしい。 ホテル側の説明を聞いていると、どうやら間違ったのは中国人側ということらしい。 それでも添乗員はごねつづける。 ホテルでの割り込みはその後も度々あった。
日本人はミステリアスな無言のスマイルが不気味がられることはあっても、マナーは比較的いい方だと思うので、こんな事を続けていれば、そのうち悪評は中国人が一手に引き受けてくれるかもしれない。
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